Bustle Pannier Crinoline

バッスル・パニエ・クリノリン

性欲落語「尻談義」

世の中には変わったこだわりを持った人ってのがいるもんでね。あっしの友達にも、AV男優の声の高さに異様なこだわりを持ってるヤツがいましてね。どんなに女優が好みでも、どんなにシチュエーションや演出が良くっても、男優の声が高すぎると、すっかりムスコが縮み上がっちまうってんです。おっかしいでしょ?いやね、AV見ないお客さんにゃピンとこねぇかも知れねぇが、意外とすっとんきょうな声出しちまうのが結構いるわけ、AV男優って。で、そいつがあまりに声が高い男優にばかり当たるもんだから、どうしたと思います?男優が声出すシーンはスロー再生して、声を低くするようにしたんですって。なかなかおもしれぇ解決方法じゃねぇかって褒めてやったらそいつこう言うんです。イヤ解決してねぇんだよ、女優の声まで野太くなっちまってイケやしねぇって。

 

しかし、このこだわりってのはなかなかどうして他人に理解してもらうのは難しい。お互いのこだわりをぶつけ合っちゃ喧嘩になっちまうってなもんでね。例えばこんな話があるんです。

 

長屋の八つぁんと熊さんが、女の魅力について話してた。

「よう、熊さんよぉ」

「なんだい」

「世の中にゃあ女の乳にばっかりこだわる奴がいるけどよ。俺ぁそういうのは粋じゃねぇと思うんだ。」

「ほうそうかい。するってえと、女の体で一番大事なのはどこだと思うんでぇ?」

「俺に言わせりゃよ、女は尻!これだよ。」

「尻か!」

「そう、尻だよ!尻こそが女の華ってもんよ。どんな女でもやっぱり尻が…ん、どうした?震えてんじゃねぇか…なんだよ!おめぇまさか、女は乳房こそ全てって思ってる向きかい?それで今、怒りに打ち震えてやがんのかい?!」

「ちげぇよ…」

「じゃどうしたんだよ?」

「よくぞ言ってくれたよ!!!」

「なんだなんだうるせえな!デケえ声出すなよー。」

「俺も同じだよ!女は尻だよな!」

「なんだ、てっきり怒らしちまったかと思ってヒヤリとしたぜ。わかってくれて嬉しいよ」

「わかるどころじゃねぇ、俺が常々思ってた事をズバッと言ってくれたよ…グスッ」

「泣くなよこんな事で!」

「女は尻だ。イヤ、なんなら、尻に女がくっ付いてるっつってもいいくれぇだ」

「それは言い過ぎだろ!でもよ、やっぱり女がいたら腰から尻にかけての曲線に目が釘付けンなっちまうよな。緩やかに丸みを帯びてよ、それが丸ければ丸いほどいいよなぁ~」

「…オメェ何言ってんだ?」

「え?」

「見るところはそこじゃねぇだろ?女の尻で一番大事なのは、尻と太ももの境目だろ?」

「尻と太ももの境目?それじゃあもう尻じゃねぇじゃねぇか。」

「馬鹿野郎!尻が終わって、クイっと丸まって、少し陰になってそこから先が太ももだろ?その太ももの手前の尻の終わりが最高なんだろうが!尻の終わりが尻じゃなければ何なんだ!?おめえは羊羹の端っこは羊羹じゃねぇっつって捨てんのか?端っこのが美味ぇだろ!」

「なんで羊羹が出てくんだよ、落ち着けよ!そんな境目なんてよく見えねぇだろ、下の方で。」

「オメェは本当に馬鹿だな!あの部分がなけりゃ尻はそのまんま脚に繋がってるみてぇになるぞ?尻はただの太ももの前日談になっちまうじゃねえか!」

「太ももの前日談の意味がわからねぇよ。とにかくオメェは妙なところを見てるってことはわかったぜ。」

「妙じゃねえよ!」

「なんだいなんだいさっきから~うるさくて昼寝もできやしないよ~」

「おぉ、隣の与太郎じゃねぇか!いい所に来た、ちょっとコッチ来い!おめぇ女の体の中で一番グッとくる見どころはどこだと思う!?」

「見どころ?」

「おう!」

「う~ん…」

「どうなんだ…答えてみろ…」

「尻…かな~」

「ホッ…よかった!どうなる事かと思ったぜ!」

「まったくだ!胸とか答えやがったら蹴殺すところだったぜ!」

「そこまでするかい~?」

「それでよ、本題はこっからだ。おめぇ、尻の中で一番大事なのは尻のどこだと思う?」

「尻のどこか?」

「おぉ、あんだろ?こう丸みを帯びた…」

「導くんじゃねぇよ!与太郎の本音を聞こうじゃねぇか。」

「う~ん、やっぱり、こう、緩やかな丸みがいいよね~」

「だよな!だよな!」

「だろ~?腰のくびれから両側にふっくらと膨らんでさぁ」

「は?両側?」

「うん」

「オメェまさか尻の左右の横っ面の話してんのか?」

「そうだよ~」

「てめぇ表出ろ!!」

「く、苦しい~!」

「やめろよ!まぁでもよ、まさか尻の横っかわを見てる男がいるなんて思いもしなかったぜ。」

「ゲホゲホ…そんなに珍しいかな~?」

「こりゃあ天下の一大事だぜ。こんなに女の尻が素晴らしいってのに、ちゃんと尻の良さを味わえてねぇ奴がこんなにいるたぁ驚きよ。」

「そいつぁこっちのセリフだぜ!」

「まあまあ~。そういう事なら、こういうのはどうだい?ご隠居に、どの部分が尻の醍醐味なのかきいてみるってのは。」

「ご隠居か。うーん、確かに無駄に長生きして、世の中の事よく知ってるからなぁ。」

「あぁ、俺たちよりよっぽど多くの尻を見てきてるご隠居が言うなら、合点がいくかもしれねぇ。」

「決まりだ。早速いってみよう~」

スタスタスタ…

 

トントン

「ご隠居さーん!」

「おぉ、八っあんに熊さんに与太郎かい。どうした雁首そろえて珍しい?」

「いやね、ご隠居さん物知りだろ?一つ訊きてぇことがあって。」

「そうかい。まあ、本好きだからね、古今東西書物を繙いてきたつもりだよ。言ってごらん。」

「女の体で一番グッとくるのは尻だよな?!」

「…なんなんだその質問は!大の男が3人来てわざわざそんな事ききに来たのかい?まったく、古今東西書物を~とか言った自分が恥ずかしいよ。」

「ご隠居さん、そうだろう?尻だよな?」

「ううむ、まぁ、わからんではないな。」

「だろ!?そこまでは江戸の常識だと思うんだ。」

「いや違うだろ…」

「でも、尻とひとくちに言っても、女の尻のどの部分が尻の醍醐味だと思う?俺たち話し合ったんだけどよ、意見が割れててさ。」

「そりゃ割れるだろ。尻の話なんだから。」

 

…。

 

おめこがよろしいようで…