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Bustle Pannier Crinoline

バッスル・パニエ・クリノリン

ゴンゲ #5

(ゴンゲ #4)

ゴンゲのズームインが止まり、彼女がそれ以上僕に近づく様子を見せなかったことで、僕は冷静さをほぼ完全に取り戻した。それに伴い、僕の脳は、まるで舞い上がった砂煙が落ち着いていったかのように、周囲の景色や自分と周辺との距離感などを徐々に捕捉し始めた。そうか、ここはこんな部屋だったのか。焦げ茶色の木造りの壁と家具に、ブランズウィック・グリーンの天井という落ち着いた色彩配置は、先ほどまでの肉欲に満ちた騒動とまるで似合わないと思われた。そんな部屋のど真ん中で、一階で会った時とはまるで違う集中力で僕をまっすぐに睨みつけるゴンゲに向かって、僕はズボンをずり上げながらこう言った。

「いくつか訊きたいことがあります。」

 

「言ってごらんよ。」

ゴンゲの、さっきまでのやる気のない姿はどこかへ消えてしまったようだ。彼女の受け答えは実にハキハキとしている。

 

「階下(した)で僕がゴンゲさんと話した後、僕のアソコはズボンのジッパーから飛び出していました。ゴンゲさんの仕業ですか?」

「だとしたら何だい?」

「さっきも、ショートボブの女にいつの間にかフェラをされていました。あの時ゴンゲさんの声がしましたが、あの女は何者ですか?」

「さあ、何者だろうね。」

ゴンゲはしゃべり方は明朗なのだが言っている内容に全く実質がない。

「ここまでやってもイカない男は珍しい、みたいなことを言っていましたよね?あの女に僕をフェラするように命令したのはゴンゲさんということですか?」

「いいや、違うよ。あたいは誰にも命令なんざしちゃいないサ…」

「誰なんですか、あの人は。」

「誰でもないよ。あれはあたいサ。」

「え?」

ここまで来て、じっとこちらを睨んでいたゴンゲの目が少しだけ細くなった。

「あたいの口をこれ以上おしゃべりに使うなんざまっぴらだね。坊や、達者で暮らしな。」

ゴンゲは唐突に踵を返すと、部屋の奥にある本棚の横へ移動して、一瞬こちらに視線をちらりと向けた後、消えた。少なくとも僕の目には、本棚と壁の間にするりと入って消えたように見えた。僕は本棚に駆け寄って、壁との隙間を確認したが、人が通れるような幅はなかった。

 

「なんか、しらけちゃった…」

ゆう子がすぐ後ろにいた。僕は驚きのあまり大声を出してしまった。このバーにいる女たちは気配を消して唐突に現れる特技の持ち主だらけなのだろうか。

「宏樹君のおちんちん、もっと舐めたかったけど、なんか雰囲気壊れちゃったね。」

ねっとりとした視線を僕にからませるように、ゆう子は僕に話しかけながら、僕の肋骨のあたりをそっと撫でた。

 

「あの…さっき、ゆう子さん、僕のアソコを口に入れた後、ドアの方に吹っ飛んでいったように見えたんですが、あれは何だったんでしょうか?」

ゆう子は肋骨からやや上の方に指先を移動させながら、なぜかハッと何かに気付いたように口を開けた。目はとろりとしたままだった。

「あれは、ゴンゲが戻ってきたからね…」

「……え?」

僕はゆう子が僕の身体から指を離そうとしない事も気にならないほど、ゆう子の発言に混乱していた。

 

「ゴンゲさんに突き飛ばされたりしたんでしょうか?」

僕のこのセリフを聞いたゆう子は、両方の眉毛を上げ、目を笑い目の寸前の形にして頬肉をやや持ち上げた。

「何言ってんの?1本のおちんちんは、一度に一人の女しかしゃぶれないでしょ?」

僕はゆう子を見つめた。1本のおちんちんは、一度に一人の女しかしゃぶれない。それは、まるでふざけているのかと思うほど当たり前の事のようにも思えたし、一方で、そんなはずはない、しゃぶろうと思えば不完全ながらも二人の女が同時にしゃぶれるはずだという子供じみた反論ができそうにも思えた。なぜこの奥が浅いような深いような真理が、僕の疑問に対する答えとして提示されたのだろう。

 

そこまで考えた時、僕の足元で奇妙な気配が横切った。何かいる。人間ではない。もっと小さい何かだ。虫よりは大きくて、速い。ネズミか、せいぜいイタチのような大きさだろう。ゆう子も僕と同じ気配を目で追っている。

「やだもう!」

ゆう子は目に見えて苛ついた。

「今度はジェナ?」

(ゴンゲ #6)