ゴンゲ #4
ゴンゲはどこだ。意識がはっきりしていれば当然声の方向と距離から位置がわかるはずだが、ショートボブの女による口淫が脳にもたらす作用のせいか、まるでゴンゲの声は空耳のように抽象的に響いた。
ショートボブの女による口淫は、まるで舌や唇、内頬に軟口蓋などが同時に攻めてくるかのような信じがたい技術力だった。もうこのまま果ててしまってもいいのでは?そんな誘惑が僕のぼんやりとした意識の中に、まるでベッドルームのフットライトのように微かに滲んでいた。
一方で、僕は視界も定まらず聴覚情報も使えないので、ゴンゲのことはいったん放置し、少なくともちゃんと見えているショートボブの女に対処することにした。猛烈な肉体的快楽の中でも、どこかに必ず冷静な自分が残っているのは、まさに“あの人”のおかげだ。
僕は本能に抗い、無上の悦びをもたらしてくれていた揺れる頭部に再び両手をやり、僕自身から引きはがした。そして、下半分が唾液に濡れた女の顔をまじまじと見つめた。
「なかなかやるじゃないか。ここまでしてイカない男も珍しいモンだよ」
ゴンゲの声がする。ショートボブの女は全く表情を動かさない。何か変だ。ショートボブの女の、そこにいるようでいないような、気味の悪さを急激に感じ取った僕は、いつもは女に乱暴などしないのだが、つい突き飛ばすように僕から女を遠ざけてしまった。
その瞬間、ドアが開き、誰かが飛び込んできた。
「ッッはぁッ!!」
ゆう子だった。
「ど、どこ行ってたんですか!」
僕は陰茎をズボンにしまいながら、尋ねた。
「ハァ…ハァ…ゴンゲだよ…」
「え?」
「あーあ、またゴンゲに取られたよ…」
ゆう子はなぜか息を切らしながら落胆していた。そして、一瞬ぼんやりとした目をしたが、直後、僕のしまわれ途中の陰茎にかぶりつくように見入った。
「えっ、イカなかったの?!」
僕は、まだ大きさと硬さを完全には失っていない陰茎を手際よくしまうことができなかったため、ゆう子のセリフに思わず羞恥心を覚えてしまった。
「キミ、ゴンゲとエッチなことしてたんじゃないの?フェラ?」
「あぁ、いや…なんか、知らないうちに…でもゴンゲさんじゃない別の人に…」
「あー…いや、とにかく、イカなかったの?すごいじゃん!」
ここまで食いついてくるゆう子が、別の人にという点に特に関心を示さなかったことに、僕は若干の違和感を覚えた。
「キミ、相当強いんだね?っていうか遅漏?」
「いや、なんていうか」僕がどうでもいい単語を並べ始めたか始めないかくらいで、ゆう子は僕のベルトに手をかけた。僕の意識がその手に向きかかった瞬間、ベルトはまるで鞭のような音を立てて飛んで行った、そしてベルトが床に着地する前に僕のズボンは膝までずりおろされていた。速すぎてよくわからなかったが、これらの動作をゆう子は1秒ほどで、しかも片手で、親指と小指を目一杯拡げながら行った。
そして、ゆう子がしゃがんで、僕の陰茎を口に含んだ。僕の脳は、今から「やめてください」的なことを言って手か何かを使って抵抗をするという指令を、体に出そうとしていた。しかし、その信号が脊髄を渡っていく前に、ゆう子が僕の陰茎を口に入れた瞬間に表情を歪ませたという視覚情報が脳に伝わってきた。
「?」
そしてゆう子の歪んだ表情は残像のように僕の脳に焼付いたが、それが残像のようだという感覚が訪れる頃には、ゆう子はドアの方に向かって吹っ飛んでいた。
僕は、坂から転げ落ちるような感覚を覚えて、膝までズボンをずり下された無様な恰好のまま尻もちをついた。カメラをズームインした時のように、誰かが近づいてきた。ゴンゲだった。
「あんた…ナニモンだい…?」
ゴンゲの姿がはっきりと見えていた。