Bustle Pannier Crinoline

バッスル・パニエ・クリノリン

ゴンゲ #6

(ゴンゲ #5)

先ほどの小動物はソファの裏側に隠れていると思われたが、怖くて見に行く気がおきない。

「なんですか今のは…」

「リスじゃない?」

ゆう子は眉間に皺を寄せたまま答えた。“じゃない?”と言う言い方は、ゆう子もあの動物自体を詳しく知っているわけではないことを示唆していた。

「さっきジュネとか言いましたね?そのリスの名前じゃないんですか?」

ゆう子の眉が八の字になった。

「違う違う!まだいるんだよ、あたしたちみたいなのが…」

あたしたちみたいなのが?“たち”という事は、ゴンゲがそこに含まれるという意味なのだろうか。

「ジュネという女性がいるということですか?」

「そう」

「ゆう子さんやゴンゲさんのように性欲が強い女性なんですか?」

「まぁゴンゲは別格だけどね」

ゆう子は目を細めた後、リスが後ろに隠れていると思われるソファに歩み寄り、どさっと腰をおろした。ゴンゲにゆう子にジュネ…このバーはつくづく普通のバーではない。噂には聞いていたが、本当にとんでもないところに足を踏み入れてしまったのだと、改めて痛感した。

「じゃあ、さっきのは、そのジュネさんが飼っているリスなんですか?」

「ううん、飼ってるわけじゃないよ。」

「じゃ、なんでリスを見てジュネって言ったんですか?」

「ジュネはこのバーの2階のどこかの部屋にいる。」

ゆう子は、しゃべりながら急に何かを探すかのように首をキョロキョロと動かした。

「あの子がムラムラするとさ…動物が騒ぐんだ…」

黙って聞いていれば、まるっきり滑稽なことを言い出すものだ。ゴンゲのイリュージョンじみた登場や、ゆう子の高速ズボン脱がしで、すでに十分すぎるほどサーカスを見てきた気分だったが、この場にいたっては動物を操る女まで登場し、よりダイレクトな意味でますますサーカスらしさを増してきている。しかし僕はがぜんジュネに興味がわいた。本棚の影に消えてしまった気まぐれなゴンゲを探す価値があるかどうか、僕は確信が持てない。一方、まだ情報が少なすぎて判断できないが、ジュネは相当の戦力になる可能性があるように感じた。ゆう子とジュネを連れて、早く村に戻ろう。

「僕をジュネさんに会わせてくれませんか?」

この言葉をきいたゆう子は、意外なことに、眉などを動かさず、無表情となった。魂が抜けたような表情を見て、僕はまたゴンゲがゆう子に何かしたのではと一瞬気がかりとなった。しかし、すぐにゆう子はしゃべりだした。

「やめといた方がいいんじゃない?」

僕は、考えた。今の雰囲気なら、ゆう子は僕に協力してくれる気がする。このままジュネは諦めてゆう子だけ連れて行くか。ジュネにこだわるあまり、ゆう子までいなくなってもらっては困る。しかし、ゆう子はジュネがこのバーの2階のどこかの部屋にいると言っていた。今すぐ全ての部屋をチェックすれば、ジュネが見つかるのではないか?自分でジュネを探してみよう。ジュネがどういう見た目なのかわからないし、名前からして日本語が通じるのかどうかさえわからないが、これ以上ゆう子からジュネの情報を収集するのもあまり良い手とは思えなかった。

 

僕はドアを開けて部屋の外へ出た。そこは確かに僕がさっきゆう子に手を引かれて上がってきた廊下であったが、先ほどよりも色がくっきりと見え、輪郭もはっきりしていた。

ゆう子がどんな顔をしていたかわからないが、特に後ろから声をかけてはこなかった。

ジュネに説明をして、協力を仰がなければいけない。簡単なことではないだろう。動物の話も、場合によっては僕にとって障害となるかもしれない。ともあれ、まずはジュネを見つけてから考えよう。

 

まずはすぐ隣の部屋のドアのノブに手をかけた。鍵がかかっている。2回ほどガチャガチャとひねったが、ドアは力づくでは突き破れそうもなかったので、いったん諦めて向かいの部屋にトライした。ドアノブに力を込めると、先ほどと異なるスムーズな感触があり、僕の脳は小躍りした。ドアが開いた。急激に猛烈な緊張感が押し寄せてきた。僕はゆっくりとドアを押していき、中の視界を広げていく。先ほどまでいた部屋とあまり変わらない雰囲気の部屋があった。しかし、ドアを完全に開けきる前に僕は異変に気付いた。部屋は確実に、無人ではない。何かがいる。しかし、それが何なのかわからない。誰の姿も見えないが、誰もいないとは断言できない何かがあった。僕は、恐る恐る部屋の中に入っていった。ソファの後ろや本棚の影にジュネが隠れているかもしれないと思いながら、僕はびっくり箱をびっくり箱とわかっていて開けようとしている人のように、ビクビクしながら部屋のいろいろな場所をチェックした。1分ほどかけて部屋を見たが、人はいなかった。動物も見つからなかった。時間を無駄にした。次の部屋に行こう。そう思って部屋の入口に戻った。

 

「何かお探しですか?」

「うわぁっ!!!」

 

いつの間にか入口に少女が立っていた。少し太った中学生か高校生くらいの女の子だった。やはりこのバーにいる女性は全員気配を殺すプロだ。しかし、この子がジュネなのか?動物が騒ぐくらい性欲が強いと言うにはあまりに若すぎる気がするが。ちなみに、完全な日本人顔だ。少し目が細く、眉毛はやや太かった。

「すみません!部屋に勝手に入ってしまって…」

「どなたですか?」

少女はあまり動じた様子はない。

「僕は、宏樹と言います。あの…ジュネさんという人を探しているんですが」

「わたしです。」

少女はまったく動じずに答えた。ジュネという名前、もし本名なら、いわゆるキラキラネームなのかもしれない。いや、むしろこの子の世代ならわりと普通の名前なのかも。

「ちょっと待ってよ」

この声は…ゆう子だ。すぐにゆう子が現れ、背の低いジュネの頭の向こうにゆう子の顔が見える格好となった。その顔は、目に見えて怒っていた。

「やめといた方がいいって言ったよね。」

まずい。ゆう子の機嫌が悪い。しかし、2人がセットで目の前にいるのはある意味好都合だ。僕はゆう子の感情の処理を考慮せずに、僕がこの店にきた理由を改めて詳しめに説明して2人同時に理解してもらおうと考えた。本当は先にジュネの性欲を品定めしたかったが、説明なしにそれをするのは難しいだろうと判断した。

「すみません、ゆう子さん。でも、僕は一人でも多く、力になってくれる人が欲しいんです。ジュネさん。初めて会ってこんなこと言うの大変失礼かもしれませんが、あなた性欲が強いそうですね?」

「せいよく?」ジュネは首をかしげた。

「エロいってこと」ゆう子がイラついた表情のまま口早に答えた。ジュネはなるほどという顔をして、かすかに嬉しそうな顔をしてこう答えた。

「そうですね…自分でもエロいほうだとは思います。」

(続く)