ゴンゲ #2
積極的に話しかけてきたことから、
「あの、あなたはゴンゲさんのお友達ですか?」
「お友達っていうか…知り合い?」
髪の長い女は、半笑いで髪をかき上げながら視線を逸らした。
「ゴンゲさん、どこに行ってしまったんでしょうね・・・」
何気なく言った僕だったが、
「さぁねぇ・・・オトコでも漁ってんじゃない?」
先ほど見た女がゴンゲなら、僕がもともと聞いていたような、
「そうですか?正直とてもそんな風には・・・」
「え、でもそういうゴンゲを期待してきたわけでしょ」
髪の長い女はけだるそうに斜め下からの視線を送ってくる。僕にしてみれば、この髪の長い女の方がよっぽど現役で性欲バリバリの女に見えた。もうゴンゲはどこに行ったかわからないし、どちらにしてもあの様子じゃゴンゲはもはや性欲の権化ではないだろう。いっそ、この人に力を貸してもらえないか、頼んでみようか。
「あ、あの…あなたに来てもらうわけには、いかないですか…?」
「は?」
髪の長い女はケタケタ笑い始めた。すっとんきょうな事を言っている自覚はあったので、僕はその無邪気な笑いが収まるのをおとなしく待った。
「キミちょっとおもしろいね。ちょっと話きこうか。飲み物持っといで。」
髪の長い女の言われるままにバーカウンターの飲み物を手に取って、女と同じテーブルに付こうとしたが、女は僕のことを手のひらでハッキリと静止した。
「え?」
困惑している僕に、髪の長い女はこう言った。
「全然気づいてないみたいだから一応言っておくけど、ズボンのジッパー開いてるよ?」
僕が視線を落としてズボンの前を確認する速さは相当なものだったに違いない。首がブオン!という音を立てたような錯覚があった。そして、僕が目にしたものは、そんな首の擬音などどうでもいいくらい驚くべき現実だった。
「げぇ!」
僕は自分のウインナー・ソーセージを慌ててズボンの中、そしてパンツの中にしまいこんで、力いっぱいジッパーを上げた。まるでテキーラでも一気飲みしたかのように猛烈に顔が血色に染まり、熱くなって、汗が滲み出てくるのを感じた。一体いつの間に、そしてなぜ、僕のイチモツは対外的にオープンな状態となってしまったのだろう。焦りと恥ずかしさと困惑で僕はパニック状態に陥っていた。それを見た髪の長い女はひとしきり笑い転げたあと、息を大きく吸ってこう言った。
「それ、ゴンゲだよ」
「え?」
「キミがゴンゲに説明してる間に、ゴンゲがこっそりキミのおちんちん出してたんだよ」
そう言うと再び女は爆笑し始めたが、その説明は到底納得できるものではなかった。僕はゴンゲの隣に座ったわけではなく、一つ席を挟んでいたし、仮に隣だったとしても、話している最中にジッパーを下されてチンポを取り出されて気付かないヤツなどいるわけがない。もし犯人がゴンゲではなくこの女だとしても同じだ。十分な距離は取っていたし、仮にそうでないとしても気付かないはずはない。つまり、答えはひとつ。このバーに入ってきたときからチンポ丸出しだったということだ。しかし、それもありえないだろう。僕がちんぽをブラブラさせながら店に入ったとはとても思えない。
「キミ、ゴンゲはもう男漁りなんかしそうに見えない、みたいに言ってたよね?」
僕はもはや何も答えられなかった。
「あんな顔して、初めて会った男のおちんちん、狙ってるんだからね。さあ、お隣どうぞ。」
一度僕を制止したその手は、ソファの自分の隣のスペースを軽くトントンとたたいていた。