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Bustle Pannier Crinoline

バッスル・パニエ・クリノリン

ゴンゲ #3

小説:ゴンゲ

(ゴンゲ #2)

「ねぇ…キミ何歳?名前なんて言うの?」

髪の長い女はとろんとした目で僕に視線を投げかけてくる。女の唇はふくよかに実り、その胸は理想的な高い位置でしっかりと丸みを帯びた存在感を主張していた。

「宏樹です…」

相手の謎めき度合を勘案し、下の名前のみ明らかにすることで手を打った。

「そちらは…なんとおっしゃるんですか?」

「え、あたし…?あたしはねぇ…ゆう子」

「ゆう子さん」

手持無沙汰の解消と記憶の定着のために名前を繰り返しただけなのに、女はこの繰り返しに対して、息を断続的に吐いて笑ってみせた。

「緊張してるね」

「いえ、別に」

「それでさぁ…宏樹くんは、ソイツをどうしたいわけ?」

唐突に仕事の話が始まった、そう思った。

「これ以上ヤツの好きにさせるわけにはいかないんです」

僕は訊かれたことに真正面から答えたつもりだったが、まるでつまらない話を聞かされた子供のように、ゆう子は興味を失ったふうの視線を無造作に自分の指に落とした。

「じゃあさぁ宏樹くん…」「はい…」「ちょっと上の階いこっか…」「えっ」

ゆう子は髪をいじり、一瞬僕の方を見たが、再度視線を下に落とした。髪からなのか、あるいは首なり手なりに香水をつけているのか、嗅いだことのない色気のある香りが先ほどから僕の脳髄を刺激していた。

 

僕はここに来た用件をより詳しく話すために静かな場所に移動するのかと割と本気で思っていたが、心のどこかで、ゆう子の性欲の強さを確認するチャンスが訪れるのかもしれないという微かな期待も持っていた。気が付くと僕はゆう子のしなやかな指に手を引かれて階段を上っていた。

 

バーの上の階にはいくつかの部屋があるようだったが、ゆう子はそのうちの1つの部屋のドアノブに迷わず手をかけ、滑らかな動きで中に入っていった。その間じゅう、僕はゆう子の指から伝わる“メス感”を分析しようと感覚を研ぎ澄ませていた。

 

この店に入ってからというもの、淀んだ空気のせいなのか、漂う煙の甘ったるい匂いのせいなのか、それとも店に流れるジャンル不明の音楽のせいなのか、まるで時間と空間がわずかに捻じ曲がるような感覚が離れなかった。僕はそれを鬱陶しく思いながら、自分の意識の連続性を絶やさぬよう、ゆう子の指の温度と匂いに意識を注いでいた。

 

「うおぉっ!」僕は、だしぬけにひんやりとした感触に襲われた。目を凝らすと、ゆう子の頭頂部が下の方で揺れているのが見えた。展開の速さに付いていけないが、僕の陰茎はまたもや知らないうちにズボンから出されており、ゆう子の口内で唾液を介した摩擦に晒されているということを理解した。

 

僕はこのまま快楽に身を任せそうにもなったが、冷静な自分も辛うじて原型を留めていた。僕はまず、先ほどに続き陰茎を知らぬ間に露出させられた事実を踏まえ、先ほどの件もゆう子の仕業であったという仮説を立てた。おそらく、男のチンポを本人に気付かれずにズボンから引きずり出すことが、ゆう子の持つ特殊能力なのだろう。したがって、ゴンゲが僕のチンポを狙っていたというゆう子の説明は疑ってかかる必要があると判断した。そこまで考えて、眼下に見える揺れる髪の塊を両手で押さえて、口淫行為を制止した。

 

ゆう子ではない…。

 

髪型が違う。今、僕に口腔による悦楽を提供している女は、ゆう子ではない。ゴンゲか?ゴンゲでもない。次から次へと押し寄せる想定外の状況に、必死で頭のチャンネルを合わせる。暗くて見えないが、ゆう子でも、ゴンゲでもないことは間違いない。どうすればいい?このまま射精してしまうとして、それでいいのか?まずいとすれば、何が問題か?再びパニックに陥った僕は、その発言の妥当性も検討する余裕がないまま、こう言った。

 

「誰ですか…?」

 

僕の問いかけを受けて視線を上げた女はショートボブで目の小さい色白の女に見えた。高校生くらいにも見えたが、25歳くらいにも見えた。よくわからないが、本人は笑いもせず動揺もせずその作業に集中していた。

 

「なんだい、その間の抜けたセリフは!?みっともないったらありゃしないよぉ」

 

すぐ近くから声がした。ゴンゲだ。ショートボブは構わず前後運動を続けている。何がどうなっているんだ?!僕はゴンゲがどこにいるのか、方向と距離をつかむため、神経を集中した。

(続く)